堀川宏幸さんとの出会い1
2014年2月14日。
奈良に24年ぶりに大雪が降った。
めずらしい奈良の雪景色を撮影できる絶好のチャンスである。
この日を逃してなるものかと、私はぬいぐるみとカメラを抱えて出かけた。
この日撮った写真を見直すと、
垂仁天皇陵、唐招提寺、薬師寺、平城京、興福寺、猿沢池、浮見堂、飛火野と、
なんと、これだけの距離を執念でまわっている。
その日、私は、なんと自転車をこいだ。
雪国育ちの人が聞けば、なんで自転車と思うだろうが、こっちは雪道に全く知識がない。
いつもの体で出かけてしまったのだ。
幸い、車通りの多いアスファルトの上は、雪が溶けていて、
水たまりの中を走っているようではあったが、
なんとか走ることができた。
水しぶきをあげながら、転ばないよう慎重に自転車をこぐ。
車が脇を通り過ぎる度、ハンドルを強く握りしめる。
濡れないようにとビニールで覆ったカメラが、
ダウンジャケットの中で揺れ動き、カメラの紐が首に食い込んだ。
薬師寺に着いたとき、私はバカなことに、塔がきれいに見える場所を探しながら、ひと気のない脇道に入ってしまった。
車が通れないほどの細い道は、すでに誰かがバイクで通ったようで、わだちが幾本もついている。
溶けたところと雪が積もったところに大きな段差ができ、
走行するのが困難になった。
しかたなく自転車から降りて歩く。
雨靴を履いてこなかったのも失敗だった。
革靴の中まで冷たい水が浸透して、もう足はジュクジュクである。
半べそをかきながら、やっと車が通る道に出た。
へとへとだったが、撮影を続行しなければと、
その後平城京まで根性で走った。
どこまでも真っ白な地面が続く平城京は、
苦労してでも来てよかったと思えるほど美しかった。
このひどい有様でどうやってその後、奈良まで行ったのか
実はよく覚えていない。
でもカメラに写真がしっかり収まっているから、行ったのは間違いない。
うっすら凍って雪が積もった猿沢池のほとりに、くずれかけた雪だるまが写っている。
誰かが作って遊んだ後のようで、まわりに雪と泥がまじった
足跡がたくさんついていた。
奈良公園で、ハート型のウロがある木を見つけた。
ウロの上は幹が二股に分かれており、力強くて太い木と、
それより少し細い木が空に伸びていた。
ウロの中に大仏パンダを置いて写真を撮ると、
好奇心の強い牝鹿が「何しているの?」と覗きにやってきた。
心底疲れていたが思わず心がほっこりした。
浮見堂は静けさに包まれ、見慣れた景色が
まるで別世界にきたかのよう、
池のほとりには寒さで毛をふくらませた鹿たちが、
白い息を吐いていた。
本当は、若草山も登ってみたいと思ったが、
もう体力が限界で、ここで撮影を終えた。
最後に飛火野を撮った写真が4枚だけある。
近くまで行き着くことができず、遠くから撮っている。
この写真で力尽きたのがよくわかる。
家に帰り、お風呂に入ってあたたまると、ベッドにぐったり横になった。
ipadを開いて、いつも通り、友達がアップした写真を見ていた。
しばらく、いろいろなページをさまよっていると、
見たことのないページにたどり着いた。
そこでハッとなった。
今日、私と全く同じコースをたどった人がいたのだ。
薬師寺、平城京、奈良と、撮っている場所が全く同じ。
猿沢池で見たあの雪だるまも写っている。
その人は、最後に若草山まで行き、写真を撮っていた。
私と同じ苦労をしたに違いない。そう思うと親近感が一気に沸いた。
そして、コメントを入れた。
それが堀川宏幸さんとの出会いだった。