日本に帰る
2013年4月8日。
私は12年半住んでいた上海を離れ、ふる里の奈良に帰ってきた。
日本にどうしても帰らなければならない。
そんなわけのわからない衝動にかられたのは
いったい何故だったのか。
今でもわからない。
姉からときどき届くメールで、日々悪化する両親の様子を聞いていた。
オトンは全盲の上に認知症を発症。
オカンも転倒して骨折入院してから、認知症の症状が進んでいた。
ダブル認知症の二人を、姉がときどき見に行ってくれていた。
姉は年々目が見えなくなる病気を抱える身体しょう害者。
自分の家庭もあるし、一緒に住んで、老人を介護することはかなわい。
私は自分で事業をはじめ、社員を雇って、お店の経営もしていた。
だから、絶対に上海は離れられないと、ずっと姉に言っていた。
仕事は順調で、年々儲けも増え、大きな仕事の依頼も入って、将来は明るかった。
日本に帰ることは、私にとって、マイナスでしかなかった。
いざとなれば、老人ホームがある。
私は何度も、帰らない、老人ホームがある、
この言葉を心の中で繰り返していた。
なのに、心がざわつくのである。
どうしても帰らないといけない。
帰れ、帰れという言葉が頭の中を駆け回る。
その考えを、どうしても頭から取り去ることができず、
ついに、私は、大きなトランクを抱え、
犬を二匹連れて、
帰ってきてしまった。
家の扉をたたいた私に、母は、
「犬といっしょなら家に入れない」
と冷たく玄関の扉を閉めた。